

“熱い体 横たわる
こんなに小さな星の上
漂っていたい 何もかも 置き去りにして”
「アビス」が流れ出すやいなや、イントロをシンガロングし始めるオーディエンス。ミディアム・メロウでここまで鼓動を高鳴らせる曲がほかにあろうかというくらいの熱量がフロアを支配し、大きなうねりを創り上げていく。いつまでもこの空間に漂っていたい……フロアに集ったファンたちはただそう思ったに違いない。これが5人体制ラストの東京公演という感傷に苛まれながら見ていたステージも、その瞬間は5人が生み出した刹那と快感が入り混じった何とも言えないグルーヴに身を委ねるばかりだったはずだ。何もかも置き去りにして。
2月末で5人体制に終止符を打つ大阪・堀江系ガールズ・グループ、Especiaのメンバー卒業公演〈Hotel Estrella -Check out-〉が東京・恵比寿ザ・ガーデンルームにて2部制で開催された。1部では1st EP『DULCE』の収録曲だけで、2部は客演のナンブヒトシを迎えた2曲のみでステージ・アウトし、本編と逆転したような曲数をアンコールで披露するというEspeciaらしい“遊び”も加えながら、“クインテットEspecia”の集大成となるステージを多くのぺシスト&ペシスタ(Especiaのファン)とともに彩った。
『DULCE』からニュー・アルバム『CARTA』までの作品をほぼ網羅し、MCなしのノンストップで駆け抜けた掛け値なしの渾身のステージ。彼女たちがこれまで演じてきた楽曲の一部始終を集ったファンへ伝えたいという思いもあったのだろうか。興奮を高めるキラー・チューンはもちろん、ムーディ・ソウルやメロウなミディアムに、アーバンでカラフル、スタイリッシュなポップなど約3年強の間で届けてきた上質な楽曲群を、彼女らが培ってきた歌唱やパフォーマンスの成長を見届けてもらうかのように演じ切っていた。
その“全身全霊をもって”という言葉が相応しいステージに、オーディエンスが沸かない訳がない。ファンの思い入れの深さはメンバーや楽曲においてそれぞれ違えど、イントロが流れると同時に5人にしか出せない彩色で楽曲世界を創り上げれば、魔法がかかったようにフロアに煌めきと高揚を呼び起こす。曲が連なるごとに寄せては返す波のごとく胸を刺激し熱くするから、オーディエンスは声をあげ、手を掲げ、体躯を揺らす。
だが、後からジンワリと彼女たちが歌い踊ってきた楽曲の良さを再認識する一方で、5人によるパフォーマンスが見納めになるという現実に刻一刻と近づいていることも痛感してしまう。叶うなら、時よ止まれ。“青の狭間で溺れていたい、お願い二度ともう帰れない 漂っていたい”という「アビス」の歌詞が、これほどまでに胸を突き刺すことはなかったのではないだろうか。
ただし、冷静に見ると、このパフォーマンスの質が過去最高かと言われたら、それは否だ。ノンストップという構成もあるが、大阪、東京などの都市を往来しながら、連日連夜イヴェントやライヴを立て続けにこなしてきたゆえ、疲労はピークを迎えていたと思う。後半には肩で息をしていた場面も散見され、ダンスでの動きや表情、メンバーとのコンビネーション、そして歌唱にも、好調時には見せない“ズレ”もあった。
しかしながら、それらはとるに足らないことだった。歌唱力が比類のない安定を見せても、ダンスのコンビネーションが寸分の狂いもなかったとしても、それが心に訴えるかどうかはまた別だ。“ライヴ”というのは演者だけでなくオーディエンスと一体化し大きなうねりを築き上げることで、時にテクニカルなスキルを凌駕するもの。その意味では、このステージには技術面での些細な不足などを吹き飛ばすだけの訴求力が確実に存在していた。
リーダーの冨永悠香は、卒業するメンバーに新たな“Especia”とともに生きる覚悟を見せるかのごとく一心不乱にその思いの丈を自身のパフォーマンスに打ち込み、森絵莉加は「さよならクルージン」などで伸びやかな歌唱を披露して成長の足跡を示して見せた。三瀬ちひろは初期の頃が嘘のように詞世界を咀嚼した豊かな表情を各曲で演じ、三ノ宮ちかは「Interstellar」の高速ラップ・パートや「サタデー・ナイト」などで抜群のヒップホップ的対応力を披露。脇田もなりは、唯一無二のパンチあるヴォーカルワークで、オーディエンスから大きな声援を受けていた。
そして、彼女たちの機微を知ることは出来ないが、5人のなかにはきっと「この5人で創り上げられる“今”のEspeciaをやり切ろう」という強い意志があったのではないか。グループとしては悲壮感が拭えないような辛い選択をすることとなったが、その選択が間違いではないことを証明するためにも、Especiaの“第2章”の未来に明るい希望をもたらすためにも、体調がベストとは程遠くても今すべきことを全力でやり切ることが互いに各メンバーたちへの、そしてファンへの感謝のメッセージになる……そう心に決めて臨んだステージだったように思う。だからこそ、オーディエンスも彼女らの楽曲や一挙手一投足に心打たれ、前のめりになり、歓喜し涙する。技術では埋めることの出来ない感情が、心の会話が、グルーヴが、フロアの隅々までに伝播し、実にエモーショナルで情熱的なライヴが展開されていたのだ。
1部では「Clover」で拳を高く突き上げながら“夢はけして、けして消えない”と高らかに歌って、2部ではもう演じることがないかもしれない5人のアンセム「We are Especia~泣きながらダンシング~」で幕を下ろした。この5人によるEspeciaの夢は実現しなかったが、彼女たちの夢は消えた訳ではない。そして、それはぺシスト&ペシスタも同じことだ。形が違えど、Especiaがなくなることはないのだから。
もちろん、これからは卒業メンバーにも新生“Especia”となるメンバーにも試練が待ち受けていることだろう。だが、彼女たちなら本日のステージ同様、結果がどうであれやり切ってくれるはずだと信じたい。そう、彼女たちは“諦めないという運を持つSPICE GIRL”なのだから。





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<SET LIST>
【1部】13:00~
00 Introduction
01 ナイトライダー
02 FunkyRock
03 Twinkle Emotion
04 きらめきシーサイド
≪ENCORE≫
05 X・O
06 くるかな
07 トワイライト・パームビーチ
08 Mistake
09 MIDAS TOUCH
10 センシュアルゲーム
11 雨のパーラー
12 West Philly
13 Rittenhouse Square
14 シークレット・ジャイヴ
15 Interstellar
16 スカイタイム
17 オレンジ・ファストレーン
18 さよならクルージン
19 Boogie Aroma
20 ミッドナイトConfusion
21 YA・ME・TE!
22 Clover
【2部】17:00~
00 Introduction
01 ナイトフライ(guest with ナンブヒトシ)
02 Good Times(guest with ナンブヒトシ)
≪ENCORE≫
03 海辺のサティ(Vexation Edit)
04 アバンチュールは銀色に(GUSTO Ver)
05 不機嫌ランデブー(PellyColo Remix)
06 サタデー・ナイト
07 Saga
08 L'elisir d'amore
09 Fader
10 BayBlues
11 Sweet Tactics
12 ステレオ・ハイウェイ
13 Over Time
14 嘘つきなアネラ
15 BEHIND YOU
16 Sunshower
17 アビス
18 Mount Up
19 FOOLISH(12" Vinyl Edit)
20 Security Lucy
21 パーラメント
22 No1 Sweeper(necio edit)
23 Aviator
24 We are Especia~泣きながらダンシング~(Second Half)
≪ENCORE #2≫
25 We are Especia~泣きながらダンシング~(Short Acapella)
<MEMBER>
Especia are:
冨永悠香/Haruka Tominaga
三ノ宮ちか/Chika Sannomiya
三瀬ちひろ/Chihiro Mise
脇田もなり/Monari Wakita
森絵莉加/Erika Mori

また、このステージでは有志によって“光る腕輪”が配られる演出も。時にそのような演出や盛り上がり方を含めて“やり過ぎ”だと言われることもあったようだが、無償でメンバーとファンとが一緒になってライヴを創りたいという思いはもちろん、ライヴ途中で発破された紙テープを終演後にゴミ袋に集めたりという姿もあった。個人的には直接的な関わり合いはないが、これまでさまざまな形でサポートや演出をしてきたファン有志には労いの言葉を送りたいと思う。
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